098163 ランダム
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蝉時雨

ゆめのうさぎ

「もうじき溶けてなくなるよ」


低い堤防から吹き抜ける砂塵はいつか地べたにへたり込み
運ばれた潮風はいつか買った扇風機と共に吹き飛ばされた

「だったとしても」
「俺とお前はなんにもできやしない」

立ち読みする雑誌なんて見当たらない
手に取ったパイン飴はあのころの匂い
キンキンに冷えたコンビニと言う個室の空間の名の元に

「こんなこと、」
「するんじゃなかった」

僕等の好んだ世界は不法投棄なんかされない真っ当な大海
いうならば誰にも好かれることのない潮とパインと個室程の程度の悪さ
手に入らないのは思いのままの理想郷



口に含んだパイン飴の残すものは仮想の匂いと思い出だけだ
鼻の穴に砂はこびりついて匂いは嗅げないだろうけど
個室にとどまっているならばきっとこの想い出は傷つかない

(だけど、きっと)
(こんなのまともじゃない)









「それじゃまた、気をつけておかえり」


潮風が耳元に吹き付けて、雲がちぎれた
今日もまた、夢のなかのアリスを追いかける。





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